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結核の私を看病してくれた彼女(1) | 秘密のあっ子ちゃん(63)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 「友人に聞いて」とやって来られたその日の依頼者は六十才過ぎの男性でした。
 「実は四十年も前のことになるんですが…」
 そう切り出して話し始めた彼が探したい人とは、学生時代の恋人でした。
 「知り合ったのは高校の時でした。彼女は一学年下でした。どういう理由だったかはもう忘れましたが、文化祭の時に私のクラスと彼女のクラスが合同で仮装行列に出場することになったんです。彼女と親しくなったのはその準備をしている頃からでした」
 彼の高校では当時、文化祭の時に盛大に仮装行列が行われ、各クラスやチームが懸命に順位を競い、優勝者は名誉なことだったといいます。そのため、その準備にはひと月以上も費やしたのだそうです。
 「高校生時代には交際していたという程のものではありませんでしたが、私が大学に入り、彼女が洋装学校に通う頃には真剣につきあい始めていました」
 彼女は地元の名家の娘で、高校を卒業すると花嫁修業の一つとして、洋装学校に通っていたのでした。彼女は躾の行き届いたお嬢様らしく、上品で控え目で、それでいて芯のしっかりした人だったと言います。
 高校卒業後、二人の交際は本格的なものとなっていきました。彼が大学を卒業して安定した職業に就けば、結婚しようとも考えるようになっていました。
 ところが、大学卒業も目前した頃、彼は結核を患ってしまいました。
 彼はひとりっ子で、戦争中に母を亡くしています。身近に看病をしてくれる者がない中で、彼女が献身的に彼の看病をしてくれたのでした。
 その甲斐あってか、彼の病状は回復に向ってはいきましたが、彼は彼女との結婚を断念しました。昭和二十年代のその頃、結核はまだまだ恐れられていた病気です。
 無論、彼女は彼が結婚を断念したことに猛烈に反発しました。が、自分を納得させるためでもあった彼の冷たい態度に、二人の間は次第に遠のいていきました。
 「彼女のあの看病のお陰で結核は完治しました。今、どうしているのかということも気になりますし、あの時、彼女が献身的に尽くしてくれたことに感謝の気持ちを伝えたいんです。」
彼が彼女を探したいと随分以前から思っていた動機とは、そういうことだったのです。

<続>

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