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天涯孤独の私に祖母が?(2) | 秘密のあっ子ちゃん(68)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

天涯孤独のみなし子だと思って育った彼女(45才)。役所からの届いた遺産相続の通知で、最近まで祖母が生きていたことを知った彼女は田舎に向かいましたが、疑問はますます膨らむばかりです。
「祖母は私が生まれたことを知らなかった訳がないと思います。なのに何故、孫の私に四十年以上も連絡を取らずに、遠縁の男性を養子にしたんでしょうか?」
彼女は後見人でもある勤務先の食料店の主人に相談しました。彼女は自分が生まれた頃に何があったかを知りたいと思ったのです。
「しかしなぁ、あの養子さんでは何も教えてくれんだろし…。それに、他にはもう縁者はおらんのやろ?」おじさんも考えあぐねてしまいました。
彼女は自分の戸籍謄本を取り寄せ、手がかりを把もうとしました。しかし、当然と言えば当然なのですが、戸籍には彼女の知りたいことは何一つ記載されてはいませんでした。
三年の月日が流れ、そのことについては彼女も諦めかけていた頃、おじさんがある新聞記事で当社のことを知ったのでした。
二人は早速、連れだって人探しの相談にやってきました。
二人の依頼は彼女が生まれた頃に何かあったのかということもさることながら、とにもかくにも彼女のお母さんとお祖母さんの墓がどこにあるのかということでした。彼女が生まれた頃の事情はその調査の過程で何か分るかもしれません。
彼女が持ってきた戸籍謄本を改めて見ると、彼女の父の欄は空白でした。
父は誰なのかということも分らず、母は五才の時に死亡し、福祉施設で育った彼女。四十五才という人生の半ばにして、初めて祖母が最近まで健在だと知らされ、自分が何者なのかということがやっと分ると駆けつけた田舎では財産目当てと誤解された彼女の心中は如何ばかりかと、聞いている私達の方がつらくさえありました。
にもかかわらず、彼女は健気なのです。
「素直だし、本当によく働いてくれるし…」
後見人のおじさんもそう彼女を褒めました。そう言うおじさんこそ、温厚でとても優しそうで、私は彼女がそんな人と巡り合えたのは何よりの救いだと思ったのでした。
彼女のお母さんとお祖母さんの墓の調査は、彼女が持ってきた戸籍謄本を手がかりに始めました。まず、そこに記載されてある彼女の本籍地の近辺の聞き込みを行ったのです。 その地域には親戚筋も残っておらず、先祖代々古くから続くお宅へ何軒も聞き込みに入りました。その中の一軒の情報から、彼女のお祖父さんが戦前に大阪へ出てきたのだということが分ってきました。
「確か、あそこの家の本家筋が隣町にあったんじゃないかなぁ」
もうすぐ九十歳になるという、そのお宅のおばあさんが古い記憶を辿って教えてくれました。
私達はすぐに隣町の役所を訪ね、彼女の本家筋のお宅の存在を確認しました。そのお宅は幸運なことに現存していて、八十三歳のおじいさんがご健在でした。
「その名前を今ごろ聞くなんて、何とも懐かしいですわ。今では一族の中で私が一番古い人間になってしまいましてネェ。墓?彼女から見れば祖父に当たる者はウチの菩提寺に葬られてます。若い頃大阪へ出てましたけど、晩年はこちらの方に帰ってきてましてね」
やっと行き当たった本家筋だというおじいさんは、依頼人の祖父のことを教えてくれました。
「その者だったら、ウチの菩提寺に祭っていますよ。ウチは本家も分家も代々その寺に墓を建てていますのでね」
おじいさんはそう説明してくれました。そして、依頼人の生い立ちを聞くと、こう言ってくれたのです。 「ここはウチの姓の発祥の地なんですよ。大阪で、そのお嬢さんがそんなに苦労されたんですか?お話を聞いていると、薄い親戚といえども何となく他人事とは思えません。私で分かることなら何でもお教えしますよ」
スタッフは急ぎ込んで彼女のお祖母さんとお母さんの墓はどこにあるかと尋ねました。
「ああ、その嫁さんの墓ねぇ…。 ちょっと、いろいろ事情があって、ウチの菩提寺にはないんですよ。随分後になってもらった養子さんが守っていると聞いてますがね…。確か、あそこの寺の名は…」
彼女のお祖母さんの墓はこうして判明したのですが、それは何とも歯切れの悪い回答でした。
「『いろいろ事情があって』とおっしゃるのは何があったんでしょうか?」
スタッフは思い切って尋ねました。しかし、本家のおじいさんは、「うん、まあ…」とだけ言って、それ以上は答えてくれませんでした。
「では、彼女のお母さんの墓はご存知でしょうか?」スタッフは再び尋ねます。 「娘さんの方ねぇ…。娘さんの方はどこに祭られているのか分かりません。あの人もいろいろあったようで…。それにしても、あの娘に女の子がいたなんて…。その人が親の墓を知らないということは、無縁仏さんになっているのかもしれませんねぇ…。一度お逢いして、ゆっくりお話をしたいと思います。是非一度、こちらへ来られるように伝えて下さい」
おじいさんはそう言いました。
その後、私達は彼女が幼い頃に母と暮らしただろうと思われる土地と、戸籍に記されたお母さんの死亡した土地の寺々を当たり、それらしい無縁仏が祭られている数ケ所の寺を見つけ出しました。
私達はそれらの寺と本家のおじいさんが教えてくれた祖母の寺の名を報告し、「是非一度、本家のおじいさんを訪ねられた方がよい」と心から伝えたのでした。

<終>

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