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神戸の「おばちゃま」と震災(2) | 秘密のあっ子ちゃん(80)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 母が亡くなり姉が嫁ぐと、依頼人(51才)が憧れの神戸の「おばちゃま」の家へ遊びに行く機会もすっかりなくなってしまいました。
 彼女が高校に進み、就職し、結婚して子供が生まれ、子育てに追われているうちに四十年近くの月日が流れていきました。彼女の結婚式も父の葬式もささやかにしましたので、おばちゃま達には連絡しませんでした。そのうち、毎年きちんとくれていたおばちゃまからの年賀状も途絶えました。彼女はハトコ達がどこの学校に進学し、どういう所に就職したのかも知りませんでした。それでも彼女は自分自身の生活に追われて、さほど気に止めていませんでした。
 ところが、あの阪神大震災が起こりました。急に彼女の脳裏に優しかったおばちゃまの笑顔と幼い頃の記憶が一挙に蘇ってきました。テレビに映し出されてくる崩れ落ちた家屋や寸断された道路は、明らかに彼女の記憶にある光景とは違っていましたが、俄然、「おばちゃま達は無事なのだろうか」と思いました。彼女は食い入るように発表される死亡者名を見つめていました。
 すぐにでも探しに行きたい気持ちでしたが、彼女はとっくにおばちゃま達の住所を忘れていました。
 それでも彼女が当社に依頼してきたのは、震災があって半年も経ってからのことでした。
 「どう探していいのか分らず、お宅の会社のことを聞いたのは、つい二、三日前のことだったんです」
 彼女はそう言いました。
 調査の結果、「おばちゃま」は、京都府長岡京市でお元気にお暮らしでした。今年、七十九才になられます。長岡京市には、ご主人が亡くなられた後、長男夫婦と同居するために十年前に越されたもので、もちろん震災の被害は受けておられませんでした。
 おばちゃまは初め、彼女のことを忘れていました。スタッフが従姉妹に当たる人の娘さんで、三十年以上前にはよく神戸のお宅に遊びに行っていたということを説明すると、やっと思い出されたようです。
 「ああ、思い出しましたよ。そう言えば、そんなことがありましたねぇ。あの頃は私も若かったし、彼女は可愛いお嬢さんでしたよ。よくまぁ、覚えていてくれていて探してくれたものです」
 おばちゃまは、そう言って、大層喜んでくれたのでした。そして、こうも言ってくれました。
 「是非、一度遊びに来るように伝えて下さいね。これで私も楽しみが一つ増えました」

<終>

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