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シェフの思い出のお客さん(2 ) | 秘密のあっ子ちゃん(82)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「現実からかけ離れた夢」と、依頼人は自分自身に苦笑しながら、そんな夢は忘れようとしました。しかし、ふとした時にその夢は蘇ってくるのでした。自分の心の中に現れてくる彼女の姿を打ち消そうとすればするほど、それは鮮やかな形となって蘇ってくるのでした。
彼が当社にやってきたのはそんな頃です。
「あの母子が今、どこでどんな生活をしているのかを調べてもらえますか?たぶん、旦那とは離婚していたのだと思います。今も一人なら、できれば結婚を前提につきあいたいと思っています」
彼はそう言いました。
人探しの調査を開始して一週間後、彼女の住所と電話番号が判明してきました。彼女は勤務先により近くて、子供部屋を取れる少し広いマンションへ引っ越していたのでした。彼女はまだ独り身でした。
その調査の結果を聞くと、彼は是非、彼女にコンタクトを取って、自分の気持ちを伝えてほしいと言ってきました。
「自分の口から言わなあかんことなんでしょうが、この年になるとどうも照れくさくて…」
彼はそう言いました。
依頼人の意向を受けて、スタッフは彼女と接触をはかりました。
初め、彼女は突然訪ねてきた見ず知らずの女性に怪訝な顔をしていましたが、彼が十年前に雇れ店長として働いていたレストランの名前を告げると、急に態度が変わりました。
「ええ。あそこの店では、息子をよく可愛がってもらい、本当によくしてもらいました。こっちへ越してきてからも何回か行こうと思ったんですが、やっぱり遠いですし、息子も塾に通い出すとなかなか時間が取れなくて…」
彼女はそう言いました。 スタッフは勢いづいて彼の気持ちを伝えました。
しかし、結果は彼の恋が実ることにはなりませんでした。
「チーフはほとんど厨房に入っておられてましたので、顔もよく覚えておりません。すみません。実は、私は昨年から結婚を前提におつきあいしている人がおります。私のような者にそのようにおっしゃって下さって本当に有難いことだと思いますが…。重々失礼のないようにお伝え下さい」
彼女の返答はこうでした。 彼の恋は、結局実ることはありませんでしたが、私にもスタッフにも爽やかな印象を与えていってくれた依頼でした。

<終>

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