これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
当時親しかった同僚仲間のうち、今も在職しているのは彼以外にももう一人懇意にしていた女性がいました。依頼人は、余程その女性に彼の消息を尋ねようかと思いました。しかし、「どうして、今ごろ?」と聞かれることが煩わしくもあり、また恥ずかしくもあったので、電話することができませんでした。 三十路を過ぎると、あれだけ結婚話にうるさかった両親ももう何も言わなくなりました。会社を退職した後に習得したコンピューターを使っての建築設計の技術は評判で、仕事の方も順調でした。そんな彼の消息を知りたいという願いはほとんど諦めていた矢先に、当社を取材したテレビ番組を見て、彼女はすぐに電話をかけてきたのでした。
「会社の方へ聞き込まれる場合は、絶対に私の名前を出さないでほしいんです」彼女は依頼時に「くれぐれも」と言いながら、そう要望してきました。当社としては、彼女の要望は難しい注文ではありません。
早速、彼の消息を調査した結果、彼は今も会社に勤務していることが判明しました。東京支店に配属され、年令相応以上の役職に就き、同期では一番の出世頭でした。
彼の消息と、彼もまだ独身であることが分ってくると、依頼人は彼にコンタクトを取ってほしいと再び依頼してきたのでした。
「私も仕事の都合で東京へはよく行きます。彼が大阪の本社に出向く時でも私が東京へ行く時でも、そういう時々に会えないか、彼の気持ちを確かめてもらいたいんです」彼女はそう言いました。要は「できることなら付き合いたい」ということでした。
私達は彼に連絡を入れました。彼女の名前を告げると、彼は急に弾んだ声でこう言いました。
「いやぁ、懐かしい名前を聞くもんです。彼女は元気にしていますか?今も、やはり大阪にいるんですか?結婚はしたんでしょうね?」
彼は矢継ぎ早に質問してきました。スタッフが彼女はまだ独身であることを伝えると、彼は意外だという風に「えっ?!」と反応してこう続けたのです。
「彼女程の女性がまだ独身とは?それでは、僕が交際を申し込んでも大丈夫ですね?一度、僕の方から電話させてもらいます」
彼女は結婚話を断った甲斐があったというか、彼を探した甲斐があったというか、この依頼は文字通りのハッピーエンドとなったのでした。
<終>
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