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彼は本人?別人?(2) | 秘密のあっ子ちゃん(90)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 それから八年が経って、彼女は32才になりました。転職こそしましたが、彼女はまだ独身です。八年前の暮れに一度だけ出会ったあの彼のことは時々脳裏を掠めますが、調査会社に依頼しても見つからなかった経験があることから、頭から「探すのは無理だ」と諦めきっていました。
 ところが今年の春、何気なく見ていたテレビ番組で初恋の人探します社という会社があることを知りました。自分にも気になる人がいる彼女は、食い入るようにその番組を見たと言います。そして、翌日、早速、当社に電話してきたのです。
 しかし、彼女の要望は一風変わっていました。彼の割り出しをしてほしいという一般的な依頼ではなかったのです。 
 八年前の暮、自分が酔っていたせいでウイスキーをこぼして迷惑をかけた、あの彼を改めて探してほしいというのではなく、以前に依頼した調査会社の報告書の人物が本当に彼に間違いないのか、それともやはり同姓同名の別人であったのかを確認してほしいということだったのです。
 とは言っても、彼女の意図が、それを確認して、もし別人であればその調査会社に文句を言っていこうということにあるのではありません。
 「あの時の調査依頼は、私が分かっている材料と言えば彼の名前だけで、どの辺に住んでいるのかもどんな仕事かも知りませんでした。そんな中でその調査会社はよく割り出してくれたと思っています。ですから、今から御社に改めて調査依頼をしたとしても、結局同じ結論になると思うんです。ただ、あの時、先方のお父さんの話ではその人は家出中で、私が直接ご本人に確認を取った訳ではありません。それがどうも心残りなのです。ですから、その人と私が思っている人と同一人物であるかどうか確認してもらいたいのです」
 彼女はそう言ったのです。
 「私が自分で確認してもいいんですが、またお父さんが出てこられて根掘り葉掘り聞かれると、今度は何と答えていいか分かりませんし…」
 彼女はそう言いました。
「お父さんと接触するのは
避けたいということなのですね?」
 スタッフは確認しました。「そうなんです。何とかそちらで確認する手立てはありませんでしょうか?」
 彼女はこのままではどうしても心残りのようでした。スタッフは思案の末、こう言いました。
 「そうですねぇ…。それでは、弟さんがいらっしゃることが分かっておりますから、その弟さんにコンタクトを取ってみましょう」 「是非そうしていただきませんか!ただし、弟さんには自宅ではなく会社の方へ連絡を入れていただきたいんです」
 彼女は余程お父さんに聞こえるのが嫌なようでした。 私達は早速、弟さんの勤務先を調べました。それは程なく上がってきました。ところが、「すわ、連絡を」と勇んでスタッフが電話を入れると、彼はつい最近転勤していました。
 スタッフは出鼻をくじかれた思いでしたが、再び彼の転勤先へ連絡を入れたのでした。
 やっとのことで、彼女が以前に依頼した調査会社の報告書にある人物の弟さんと連絡が取れました。
 スタッフが八年前の事情を説明すると、彼はすかさずこう答えました。
 「ああ、そういうことがあったことは父から聞いています。ただ、兄は人違いだと思いますよ。兄は関西へは行っておりませんし、当時、学生でしたから…」 「そうですか。やはり人違いでしたか。彼女はがっかりすると思います。で、お兄さんは今どうされているんですか?」
 スタッフは尋ねました。
 「兄は今は落ち着き、がんばっています。戻って来た時、父が兄に尋ねていましたが、兄もそんなパブは行ったことがないと言っていました。あの時はその方に大変失礼しました。父も多分動揺していたのだと思います。かなりきついことを言ったみたいですので、その方にはくれぐれも謝っておいて下さい」
 最後に弟さんはそう言ったのでした。
 このことを報告すると、彼女は意外とさばさばしていたので、私達が驚いてた程でした。おそらく彼女は、八年が経って、パブで知り合った男性のことより、お父さんとの会話の内容や家出していたその男性のその後のことが気になっていたんだということを、私はその時初めて気がついたのでした。

<終>

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