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空き巣に狙われている!?(1) | 秘密のあっ子ちゃん(124)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
 
 つい最近、「狙われている」と助けを求めて飛び込んで来られた女姓がいました。
 彼女はキタのある高級クラブに勤める二十四歳のホステスさんでした。顔立ちは非常に美しく、その上、男性から見れば「守ってやらなければ」と思わせるような可愛いさがあり、常に自分の手元に置いて独占したくなるような雰囲気を持った女性でした。
 聞くと、彼女はこの二ケ月の間に三度も空巣に入られてたと言うのです。
 一度はセカンドバックの中の現金十万円程度とキャッシュカード類全て、二度目は毛皮やブランド物のバックなど、計四百五十万円相当を盗まれたとのことでした。もちろん警察には届け、現場検証はしてもらったと言います。
 「で、警察の方はどうおっしゃってました?」
 私が尋ねると、彼女はこう答えました。
 「ベランダからといった、外からの侵入の形跡はないと言われました。私はたぶん合鍵かなにかを使って、玄関のドアから入ったんだと思うんです」
 「警察の方の捜査は進んでいるようですか?」
 私は彼女に尋ねました。 「いえ、それが動いてくれている様子がないんです。現場検証の時、指紋が出ないかも見てくれたんですが、それも出なくて、その後は何の連絡もありません」
 「そうですか。で、今日は当社に何をしてほしいということでお越しになられたんですか?」
 私は話の筋がよく見えず、そう聞きました。
 「実はネ、この空巣は誰がやったのかはだいたい検討がついているんです」  彼女はこんな話を始めました。
 「店のお客さんで、以前からすごい口説かれてた人がいて、私が相手にしないもんだから、たぶんその人が嫌がらせてやっているんじゃないかと思うんです」 「ふ~ん。で、その人がやったという確証はあるんですか?」
 「私、盗聴もされているんです」
 彼女は私の質問には直接答えず、次の話を始めました。
 「友達と電話で話したすぐ後にその人から電話がかかってきて、友達との会話の内容を知っていたんです。盗聴されているとしか考えられないでしょう?」
 「友達と電話で話していたすぐその後に、その人から電話がかかってきて、友達との会話の内容を知っていたんです。盗聴されているとしか考えられないでしょう?」
 依頼人は言いました。
 「その可能性も否定できませんが、それだけでは断定できませんねぇ。その友人に話された内容をお店でされたことはないですか?」 私は尋ねました。
 「……、してないと思いますけど……。それに、その前後、マンションの前に変な車がよく止まっていたんです」
 「変な車って、ナンバーは控えられましたか?」
 「いえ、控えてません」 「そうですか。ナンバーが分れば、その車は誰の所有者かを割り出せますので、今回の件と関係があるかどうか判定できるんですがねぇ……」
 「それよりも『盗聴』って、どんな風にされるものなんですか?」
 こういうことに関して素人である者としては至極当然なことですが、彼女は自分が一体何をされているのか分らないことに相当な不安を感じているのでした。
 私は考えられる「盗聴」のパターンを依頼人に説明しました。
 「一つは目覚し時計や受話器などの室内の器具や家具にセットするものと、もう一つは電話回線にセットするものとがあります。これは電波がさほど遠くへ飛ばないので、隣室や近くに車を待機させておいて聞く必要があります。ですから、先程おっしゃられた『変な車』というのは可能性がない訳ではありません。しかし、電話回線に盗聴器をセットするのは法律違反ですし、見つかれば“逮捕”ということになります。電柱につけておくのは目立ちますし、NTTも常に注意していますから、遊び半分の嫌がらせでするにはリスクが大きすぎますねぇ」
 「部屋の中にセットするのは簡単なんですか?」
 彼女はまだ不安が取れないようでした。
 「盗聴器をセットしたものをあなたにプレゼントするか、直接部屋に侵入してセットするかでしょうねぇ」 「私、絶対、部屋の中にセットされているように思いますわ。それを発見するということはできるんですか?」
 「ええ。それは十分可能ですが、あなたの部屋は侵入しやすいような構造なんですか?」
 依頼人が不安にかられる気持ちは重々理解できるのですが、私にはどうも彼女が先走っているように思え、そう尋ねました。
 「いいえ、ベランダから入るという手はありますけど、十階建ての七階ですから、『簡単に』という訳にはいかないと思います。あとはドアから入るしかありません」
「合鍵を誰かに渡しておられますか?」
 再度、私は尋ねました。 「ええ。今、台湾の友人が居候してますから、彼女にだけは渡してあります。空き巣に入られてからは何回もキーを換えて、今は電子ロックにしています。これは私の承認がない限り、合鍵は作れないそうです」 「で、その台湾の友人という方は信頼のおける人なんですか?」
 「ええ。それは大丈夫です。空き巣に入られたことも一緒に心配してくれてますし……」
 私は彼女のその“友人”という人の人柄や彼女との親密度をよく知りませんので、彼女が「大丈夫」と言えば、それ以上何も言うことはできませんでした。
 彼女の話はまだまだ続きます。
 「私、そのお客さんと話をつけようと思って、税理士さんに電話したんです」 「ちょっと待って下さい。“そのお客さん”というのは、盗聴したり空巣に入ったりした犯人だとあなたが思っている人ですね? で、その人に連絡を取るのに、何故税理士さんに電話するんですか?」
 彼女の話は注意深く聞かないとよく分からないところがあります。
 「その税理士さんがその人をお店に連れて来た人です。私は税理士さんの名刺をもらっているので、税理士さんの電話番号を知っていますけど、その人の連絡先は知らないからです」
 「話がややこしいので、“その人”のお名前は何とおっしゃいます?」
 「高橋です」
 「でも、高橋さんが仮に犯人であっても、直接話したところで認める訳はないでしょう?」
 「だけど、他にどうしていいのか分からなかったから……」
 「で、高橋さんとは連絡が取れたんですか?」
 「それがね、」彼女は身を乗り出して言いました。 「事務所に訪ねていくと、全く違う人が『私がここの税理士です』って、出て来られたんんです」
 またまた、彼女の話は訳が分からなくなってきました。
「ちょっと待って下さい。あなたが名刺をいただいた税理士さんの事務所に訪ねていくと、別の方が出て来られたんですね?」
 彼女の話は筋がよく分からない所があって、私は再度念を押して尋ねました。
 「そうなんです。名刺をもらったのは三十代の人で、名刺には『吉田誠税理事務所、吉田誠』って、書いてあったんです。それで、そこに電話したら、その人が出られたんですが、事務所へ行くと、六十代の人が『私が吉田です』って、出てきたんです」
 「親子か何かじゃないんですか?」
 私はてっきり彼女の勘違いだと思いました。
 「いえ、違います!」
 彼女は断言しました。
 「私、『吉田誠先生ですか?』って、確認したんですよ。そしたら、オジイ、あ!オジイなんて言ったらあかんね。その人は『私が吉田誠です』って言うんです。それに『ウチでは税理士は私一人です』って言うんです」
 「ふーん。変な話ですねぇ」
「そうでしょう? それにもっと変な話があるんですよ」
 彼女の“変な話”はこれで終わらなかったのです。
 その税理士さんに彼女は、「私が名刺をもらったのはもっと若い方でした」と、そのいきさつを説明したのでした。 「で、その税理士さんは何とおっしゃいました?」 私は尋ねました。
 「『私の名前を騙(かた)るなんて、けしからんヤツだ』って。それで、Tに会ったら、これがまた全然別の人だったんです」
 「ちょっと待って下さい。どこでTさんと連絡が取れたんですか?」
 彼女の話はまた飛ぶので、私はそう質問せざるを得ませんでした。
 「いえ、私が名刺をもらったYという人から紹介されたTに会いたいんだと言うと、その税理士さんは『私の友人にもTがいる。あなたが会いたいのはその人間かもしれないので、私が連絡を取ってやろう』と言ってくれたんです。翌日、連絡が入ったんで会いに行くと、全然違う人だったんです。私の言うTは三十代ですけど、その人は五十代後半の人でした」
 彼女の言う“もっと変な話”とはこういうことでした。でも、私は“T”と名乗る別人が現れたということより、その税理士の友人にも“T”がいたということの方が偶然にしてもできすぎていると思いました。

<続>

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