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満州開拓団時代に…(1)| 秘密のあっ子ちゃん(150)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

六十歳代以上の方の「思い出の人探し」は、やはりどうしても戦争がからんだものが多くなります。南方で共に戦った戦友の生死。軍需工場で一緒だった同僚の消息。疎開先でお世話になった人の音信。などなど・・・
どのケースにもあの時代がもたらした重い人生があり、私はそんな依頼を受ける度に心を打たれます。
今回はそうしたケースの中から一つ、満州におられた方のお話をします。
依頼人は現在六十五歳の男性でした。彼の家族は両親と姉・兄・妹二人の七人で、昭和十一年、出身地の長野瞑から「満蒙開拓団」として満州へ入植したのだそうです。
村の半分ほどが貧しい長野での暮らしに見切りをつけて、満州の新しい大地へ希望に燃えて入植したのにもかかわらず、そこでの生活は悪条件下での開墾と寒さで、「それは厳しかった」と依頼人は話してくれました。
その話は電話を通してのものでしたが、あの時代のことなど全く知らない私にも、広大な満州の風景や地平線に沈む大きな夕陽や、その中で一生懸命働いている家族の姿が見えるようでした。

昭和十一年「瀾蒙開拓団」として六人の家族と共に満州(現在の中国東北部)へ入植した依頼人(六五)。 このおじさんの当時の苦労話に、「依頼」だということもすっかり忘れて聞き入ってしまった私ですが、彼女が登場してくると、やはりそこは職業柄と言いますか、「手掛かりになるのはどれだ?」という思いで話を聞き続けました。おじさんの家族が満州へ入植したのは、当時の政府の「二十力年百万戸計画」に基づいて、村長以下、村の半分が渡満したこと
によるそうなのですが、その中に彼女の家族も入っていました。彼女の家族は両親と息子二人、娘一人、そして末亡人になった父親の妹の六人で、当時五歳だった末娘が、今回おじさんが探してほしいという人なのです。異国での厳しい生活の中で、人々は助け合わなければ生きてはいけません。同じ村の出身ということだけではなく、そうした環境の中で両家族は内地にいたころよりも、より一層親しくなったそうです。
そんな中、日中戦争が起こり、両家の兄達も次々と「満州開拓義勇隊」に志願したり、現地徴用されたりしていき、彼は自分の二人の妹と共に、三つ違いの彼女の面倒をよくみたのだそうです。

昭和十一年、共に「満蒙開拓団」として満州(現中国東北部)に入植した依頼人と彼女の家族。二人は幼なじみとして、仲良く昭和二十年八月まで満州で暮らしたそうです。おじさんは十七歳、彼女は十四歳になっていました。
「苦しかったあのころ彼女と遊んだ記憶は唯一楽しい思い出です」と、おじさんは言っています。開墾の仕事は粗変わらず厳しく、彼女のお兄さんが戦死するということもあったのだそうです。
そしてあの昭和二十年八月十五日。おじさんは、その前後のことはあまり詳しくしゃべりたくないようでした。が、話の口ぶりから「すごい混乱だった」ことが、私にも理解できました。「十三歳だった上の妹は、そのころ死にました。十歳だった下の妹が残習孤児になることもなく、よくも無事に日本へ帰れたものだとしみじみ思います」それを聞いて私は、もうその当時のことを詳しく聞く気にはなれませんでした。おじさんの家族と彼女の家族は途中までは一緒に逃げてきたそうなのですが、長春近くで混乱に巻き込まれ、離ればなれになってしまったそうです。そしてその後の彼女と、彼女の家族の消息が全くわからないのだと言います。

<続>

突然彼女の連絡が途絶えて(2)| 秘密のあっ子ちゃん(149)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

おもしろ半分でかけたダイヤルQ2のパーティーライン。そこで知り合ったある一人の女性とやりとりした電話の数、十数回。

当然、依頼人の彼(二八)は彼女に一度会ってみたくなり、「今度会おう」と何度も誘いました。

しかし、その度に彼女は「その日は、仕事の関係で東京へ行くので」とか、「父が病気になり、看病しなければならないから」とか、あれこれ理由をつけては会おうとしなかったと言います。

私はどうも”くさい”と思い、依頼人に

「それは、彼女があなたに会えないような嘘を言ってるからじゃないのですか?」と聞く。

すると彼は、「いや、彼女はそんな嘘を言う子じゃありません」と真顔で怒って否定するのです。

私は、内心『そんなムキにならなくても…』と思いながら、再び聞きました。「そうですか。それで彼女はどんなタイプの人なのですか?」

彼の話によると、彼女は二十四歳で可愛い声の持ち主だそうです。そして、オーストラリア人と日本人のハーフで、ある週刊誌のミス・キャンパスにも選ばれたこともあり、現在はアルバイトで大阪空港の国際線のインフォメーションをしているとのことでした。

彼の頭の中では、彼女は”宮沢りえ”のような素晴らしく可愛い子と思い描いているようでした。

私は、彼の思い入れに水をさすようで悪い気もしましたが、そこは心を鬼にして言いました。

「どの内容も話ができすぎて、よけい嘘臭いですね。だいいち、そんな子がこの辺にウロウロしているとも思われませんけど…」

(しまった!最後の言葉が一言多かった)

と思ってもあとの祭り。彼はますますムキになって、「彼女は絶対にそんな嘘をつく子ではありません!」と言い返す。

私は、彼への「説得」はこれ以上無理だと判断し、話の続きを促したのでした。彼女の誕生日にプレゼントを送ろうと住所を聞くと「今、お姉さん夫婦の所に屈候している」と、その住所を教えてくれました。プレゼントを送って、一週間ほどしてから彼女から電話が入り、「お姉さん夫婦が引っ越す。自分も一人でアパートを借りる」と言ってきたのです。

それが最後の電話でした。一度、その住所を訪ねましたが、「そんな子はいない」と。

そして、彼はこうも言いました。

「その後、別の女性から交際を申し込まれもしましたし、親が『結婚しろ』とうるさくて見合いの話を進めたりもしているのですが、彼女のことが気になってまったくその気にならないのです。とにかく、彼女に一度会ってこの目で確かめないことには、僕の中で何も始まらない」

私は、「彼女の話したことが嘘であれ、真実であれ、とにかく彼女を探し出して一度会わせるのが、彼の心の整理にとって一番の薬だ」と思いました。

早速、私たちは「彼女」を捜し始めました。ところがと言うか、やはりと言うか、彼女がミス・キャンパスになったという週刊誌に問い合わせても、「ここ何年もそんな企画はしたことがない」という返答です。

また、大阪空港では「国際線のアナウンスにバイトの人は、使っていません」という回答なのです。私たちは無駄を覚悟で彼女の”お姉さん夫婦のマンション”にも聞き込みに入りました。 すると何と、そのマンションの部屋の住人は、最近入れ替わったどころか、

何年も同じ夫婦が住んでいるというではないですか!

より慎重に聞き込みに入った結果、「彼女」はその部屋の住人の三十六歳の人妻だったのです。

「どこがハーフやねん!」「なにが二十四歳やねん!」と私はあきれました。

これではどんなことがあっても彼には会えない訳です。

私は「彼女」を信じ切っている彼にこの事実を伝えれば、どんなに落胆するだろうかと恐る恐る報告しました。

しかし、彼は報告書を見るなり、「これで見合いする気になりました!」と意外にさばさばと言ったものでした。

とにもかくにも、『一件落着』というところです。

<終>

突然彼女の連絡が途絶えて(1)| 秘密のあっ子ちゃん(148)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「突然連絡が取れなくなった」と飛び込んでこられる若い人たちの「現在進行形」の依頼の中には、どう見ても「探しても無駄だ」と思われるケースかいくつもあります。つい最近も二十三歳の男性がやってきて、「一年間つき合った彼女が、突然アパートを引き払ってしまった。何とかもう一度連絡を取りたい」と言うのです。

すぐに私は『それって、ふられているんじゃないの?』と思ったのですが、初めからそんな風につき放してしまっては、あまりにも彼がかわいそう。そういう訳でじっくりと話を聞き始めました。

しかし、聞けば聞くほど、「これは、探したところで彼女の気持ちは戻ってこない」と判断せざるを得ない。『ちょっと本人にはきついかな』とも思いましたが、それこそ「本人のため」とばかり、私は、「お金がもったいないと思うから、調査はやめといた方がいいと思うよ」と言いました。

こういう場合、ほとんどの依頼人は、その事態が示す本当の意味については自覚があるようです。でも第三者と違う所は、「わずかな希望を捨てきれない」という点なのです。

誰が聞いても明らかに「ふられている」という依頼には、とりあえず「探しても無駄だ」とはっきり伝えます。

しかし、たいていの場合、私に指摘されるまでもなく、『認めたくない現実』として、依頼人自身は既にうすうす分かっているようです。

「例え、そうであったとしても、このままでは自分の気持ちの整理ができない。イヤならイヤとはっきり彼女の口から聞かないことには、次に進めない」

ということで依頼を受けることになるのですが、そのあと彼が当社から引きあげるまでの時間のほとんどは「人生相談」ということになってしまいます。しかし、そういうケースとは異なり、なかにはら忠告しても『愛』があると信じて疑わず、当社が報告書を示すまで、まるっきり「騙されている」人もいます。

それは、女性より男性の方がはるかに多い。

やっぱり、男性の方が純情なんだなぁ…と思わざるを得ません。逆に言えば、「よくまぁ、こんなミエミエの嘘をつくわ」とあきれる女性がいるのです。

依頼人は彼女のことをとことん信じて疑わず、しかし、私から見れば「よくまぁこんな嘘がつけるもんだ」とあきれる女性がいます。

今回は、そんな純朴な方々に注意を喚起してもらうためにも、あえてそのお話をすることにします。

それはもう三年も前のことです。

人探しの調査の依頼に来られた男性は当時二十八歳で、見るからにスポーツマンタイプのさわやかな印象を受ける好青年でした。

彼の話はこうでした。

「三ヵ月くらい前、友人三人とおもしろ半分でダイヤルQ2のパーティーラインに電話したんです。そこでつながった一人の女性と意気投合し、話も盛り上がりました。その時、電話番号を彼女に教えたので、それからは彼女の方からちょくちょく電話が入るようになったんです」

十数回も彼女と電話で話していれば、『一度彼女に会ってみたい』と思うのは当然のことで、彼は彼女を何回か誘っています。 しかし、その度に彼女はなにやかやと理由をつけては会おうとしなかった、といいます。私は、そこまでの話を聞いただけで、どうも『くさい』と思いました。

<続く>