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「マディソン郡の橋」のように(1)| 秘密のあっ子ちゃん(161)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回はあの『マディソン郡の橋の日本版のような お話をしたいと思います。
依頼人は、現在五十五才 になる女性です。彼女が探したいという人は、十五年前に知り合った五歳年下の男性でした。
当時四十才だった彼女は娘と息子の二児の母で、有田市に住んでいました。子育ての合間に合間に母親が経営する喫茶店兼スナックを手伝 って、生活はそれなりに安定していたのですが、彼女は夫のあまりにも激しい浮気に悩んでいました。
ある日の夜、常連のお客 さんに連れられて、彼が初めて母の店にやってきたのです。彼は大阪の本社から下請工場に材料を納入しにきたのだということでし た。
その夜、彼女は彼とはあまり話をしなかったのですが、彼に子供が産まれたと言うのでみんなで乾杯したことが印象に残っていました。
その後、彼は有田へ納品に来る度に母の店へ顔を出すようになりました。
彼女は次第に彼とうちとけて話すようになり、冗談 を言い合うだけではなく、夫の浮気の悩みも相談するようになっていきました。 そんなことが続くと、二人は店を離れてもデートをするようになっていった のです。

依頼人(40)が夫の浮気に悩んでいるころ、仕事で大阪から有田へ来る度に彼 女が手伝っていた母のスナ ックへ顔を出すようになっ た彼(35)。
彼は真面目で堅実な反 面、気さくで頼りがいのある男性でした。
双方に家庭があることを承知しつつも、彼女は彼に 夫の浮気のことや自分の将来のことを相談しているう ちに、二人は恋に落ちていったのでした。
彼らは人目をしのんでデ ートを重ねるようになりま した。大阪だけではなく、神 戸や岡山へも一泊で旅行に行ったこともありました。
三月の初めのある日、久 しぶりに有田の母の店へやってきた彼は、帰り際に彼 女に言いました。
『次に会えるのは桜の花が咲くころやなぁ。二人で花見に行こう。スケジュール、空けといてや』
桜の花が満開となったその日、二人は京都の南禅寺 へ出かけることになりました。

待ち合わせの京都駅に彼女が着くと、彼はまだ来て いませんでした。約束の時 間にはまだ間があったの に、彼は彼女の姿を見つけ ると走ってきました。
会える機会が少ない二人 は、会える時には一秒でも 長く一緒にいたいと思っていたのでした。

<続く>

ナンパで知り合った二人(3)| 秘密のあっ子ちゃん(160)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

依頼人(20) に彼女(19) のことを報告してから半年。
『連絡はないのはうまくいった証拠』と思っていた 矢先、久しぶりに彼から電話が 入りました。
彼は、結局、彼女に連絡 を取らなかったと言いまし た。
あれこれ悩み考えている うちに月日がたち、彼自身も疲れてきて、『もうイイワ』という気になったと言います。それに、半年も経 てば、彼女も新しい人生を歩み始めているだろうとも思ったと言います。
もう連絡は取らないと彼自身が判断したことですか ら、それはそれでいいので すが、私はその話を聞い て、『彼の恋って、そんなに簡単に諦められるものだ ったのだろうか』と思いました。
当社に依頼に来られる中 年の方は、『若いころ、簡 単に踏ん切りがつくと思ってそのままにしておいたのが、今になって気にかかってしかたがない』と言われる方が多いのです。 その時は、それほど大切な人、重大な事だということに気づいて いなかったと言われます。
今、私は彼が十年後、二十年後に、そういう悔いが残らないことを祈るばかりです。

<終>

ナンパで知り合った二人(2)| 秘密のあっ子ちゃん(159)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
ナンパ橋で知り合った依 頼人(20)と彼女(19)。二人は二ヶ月もたたないう ちに同棲を始めました。
彼女は昼は専門学校に通い、夜はバイトをしていま した。彼はフリーターで、 どちらかと言えば夜に仕事 をすることが多かったと言 います。そのため、同棲し ていてもなかなか二人でゆ っくりできる時間がありま せんでした。
そのうち、彼女は彼と一 緒にいる時間を作るために、学校へ出なくなってい きました。そんなことが半年も続く と、彼女の両親に学校へ行 ってないことがばれてしまいました。 両親は「どうなっている んだ」と、ある日突然、彼 女のアパートにやってきた のです。
二人が同棲していることを知って、彼女の父親は激 怒しました。彼に対しては怒りの言葉を発することはありませんでしたが、 その場で彼女を篠山の実家へつれ帰ってしまいました。
三日後、彼女から何の連 絡もないのを心配して、彼が彼女の実家に電話を入れ ると、既に番号は変えられ ていました。
それがひと月前の出来事 だったのです。

彼は彼女から実家の詳し い住所を聞いていませんで した。変更された電話番号 だけでは訪ねていきようもありません。それに、彼にはもう一つ心配事がありま した。
彼女のアパートへ両親が 乗り込んできた時、彼女の父は彼に対して罵倒するわ けでもなく、「娘がお世話 になりました」と丁寧な対応をしてくれてはいたものの、親に黙って暮らし始め たことに怒っていないはずはありません。彼が訪ねて 行ったとしても、「門前払 いされるのがオチだ」としか考えられませんでした。
彼は彼女のことが心配で たまりませんでした。実家に帰って両親にこっぴどくしかられ、一歩も外 へ出してもらえないのではないか?いや、実家にいれば自分が連絡を取 ってくるか もしれない と、どこか へ預けられ てしまっているかもしれない…。 彼女が連れ戻された時、二人は今後のことを打ち合 わせする間もありませんで した。彼女を引き止める余 裕さえ与えられなかったの です。
彼女と連絡が取れなくな ってひと月、あれこれ思い 悩んだ末、彼は当社にやってきました。
彼が彼女の所 在と状況の確認を依頼してきたのは、「せめて、もう一度きっちりと彼女と話し合いたい」と願ってのことでした。
一週間後、私達の調査の 結果、彼女の実家の住所と新しい電話番号が判明して きました。彼女は間違いなく実家にいました。しか し、やはり軟禁状態だった のです。
彼はすぐに報告書を受け 取りにやってきました。 彼は悩んでいました。
彼女が軟禁状態であれ ば、当然、彼が訪ねていっても会わせてもらえないのは明らかでした。当社のスタッフが何らか の方法で彼の伝言を彼女に 伝えることができても、彼 女の方から彼に連絡が取れるとは限りません。今まで 彼女から何の連絡も入らな いのは、おそらく電話できない状況なのだと考えられ ました。
私達は、何とか彼女と連 絡を取る方法はないものか と、彼にいろいろアドバイ スをしましたが、彼は結論 を出すことができませんでした。
結局、その日、彼は、 「今の話を基に、もう少しじっくり考えてみます」 言って帰っていったのでした。
それからまた半年がたち ました。彼から当社には何 の連絡も入りませんでした。
私は彼のことが少し気に かかっていましたが、連絡がないのはうまくいった証 なのだろうと思っていたのです。
しかし…。

<続>