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連れ去られた?娘(2) | 秘密のあっ子ちゃん(142)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 

家出した一人娘の調査を依頼してきた父親の話はまだ続きました。実は今回が初めての家出ではなかったというのです。

「そうです。最初の時(二月の家出)は友達関係にいろいろ聞いて回って、三日目ぐらいに京都でアパートを借りている短大の友人の所に泊まっていることが分かったんです」

「じゃあ、彼と一緒だったわけではないんですネ」と私。

「当たり前ですよ。あの男と一緒だったらただでは済ませませんよ」

「!?・・・で、お嬢さんはすぐに戻ってこられたんですネ?」

「いや、言うことを聞かず、また逃げようとしたので『卒業したら結婚させ

てやる』『それまではちゃんと家から学校に通え』と言い含めて連れて帰ってきたんですワ」

「それではなぜ、また家を出られたんですか?」

「そんなん、連れて帰る口実に決まってますやろ」

(そら、だましたらあかんワ!)

私は半分以上、あきれ顔。「マ、お話を聞いてますと、この場合は仕方ないんじゃないですか?」。

ところが、このお父さん、私の話を全然聞いていない。

席を立ちながら「まあ、そういうことなんで、あとは家内とよく打ち合わせて下さい。私は、これからちょっと仕事がありますので失礼させてもらいます

けど、よろしゅう頼んます。あてにしてまっさかいに!」と言うやあたふたと

出て行ってしまったのです。

「なんちゅう親父や!」。ムッとしている私に、お母さんが初めて口を開き

ました。

「すみません、主人はご覧の通りの性格ですので、私が何を言っても聞く訳

がありません」

「しかし、ご主人があれでは娘さんを見つけられても同じ繰り返しだと思い

ますヨ」

「私もそう思います。ですから、このお話、主人に断っていただけませんでしょうか?」

「実は、私もお断りしようと思っていたのです」

「そうしていただけませんか。それで、主人には内緒で私が依頼したいんですが、それを受けてもらえないでしょうか?」「え!?」本当に突拍子もない夫婦だと思いましたが、お母さんの方がよほど娘さんの幸せを考えていました。「主人は当分娘の結婚は認めないでしょう。子は親の言うことを聞くものだと

思っていますから…。私もこの緑談は、初めは乗り気ではありませんでした。だけど、こうなった以上娘の生活が成り立つようにしてやりたいのです。こ

のまま放っといたら、大学生の彼と苦労するのは日に見えています」

さらに、「せめて私だけでも娘の味方になってやらねば。二人は私が隠

します。主人にはいずれその時期がきたら話します」と。

そういう話ならと、私はお母さんの依頼を受けることにしました。

しかし、時間的余裕はありません。あの父親に見つかる前に、こちらで彼女たちを”保護”しなければならなかったからです。

そもそも若い二人の「駆け落ち」というのは、たいていだれかにその居場所を告げているものです。

ところが、短大生の彼女は『大学を卒業すれば結婚を許す』と、父親にだまされて連れ戻された前回の「苦い経験」から、自分の友人のだれにも連絡をし

ていませんでした。

友人たちも今回ばかりはかなり心配していて、私に嘘を言っている素振りはありません。

一緒にいる彼のご両親はというと、彼女の父親に怒鳴り込まれて初めて事態を知り、困り果てていました。

そこで私たちは、二人がバイトで働いていそうな大学周辺を軒並み当たりました。マ、人間というのは、全く知らない土地には行きにくいものですから。

聞き込みを開始して一週間目、苦労のかいあってやっと彼女がバイトをしていたファーストフード店を見つけたのです

彼女は、お母さんが味方だと分かって大変喜んだのは言うまでもありません。

あれから半年、無論、父親はまだ二人の仲を許してはいません。

しかし、私は、一見おとなしそうだけれど芯の強いあのお母さんがついている限り、「二人はまず大丈夫だ」と確信しています。

<終>

連れ去られた?娘(1) | 秘密のあっ子ちゃん(141)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回から家出人捜索のお話をしたいと思います。

家出人や蒸発者の捜索は、家族からの依頼だけに限ってお受けしていますが、ひと口に家出人と言ってもさまざまな事情があります。

ある日突然、会社から戻らなくなった夫。

子供に置き手紙を残し、ほんの少しの身の回り品だけを持って消えた妻。

「定職につけ」と厳しく叱った翌日からどこへ行ったかわからないプータローの息子。

駆け落ちをして電話一本の連絡もない娘…などなど。

まずは、今年の春に家を飛び出した十九才の女性のお話から始めます。

最初に彼女の父親から電話があったのは、三月下旬でした。

彼女は一人娘で、両親と共に奈良市に住んでいました。父親は船場の老舗の店を経営し、彼女は京都のある短大へ自宅から通学していたのです。
それが父親の話による一と、卒業を目前に控えた三月三日、何の置き手紙もなく突然、「家を出た」というのです。
相談に来られたご両親はさすがに傭伴(しょうすい)されていました。
「ひとり娘が短大の卒業を目前に、何の置き手紙もなく家を出てしまった」こう言って飛び込んでこられたご両親はひどくやつれたように見えました。

特に母親の方は見るのも忍びがたいほどで、私は『ご両親の心痛はいかばかりか』と、相談の内容を詳しく聞き始めたのです。

ところが、ところがです。父親の話を聞いているうちにだんだんと腹が立ってきました。

つまり、こうでした。

「娘さんが家出される原因に何か心当たりはおありですか?」

「あります。男に連れ去られたんです」

(え!?なにそれ?)

「『連れ去られた』と言うと誘拐ですヨ」と私。

「いやいやそうじゃなくて、その男というのは娘の高校時代の同級生で、親に隠れて四年もつきおうとったらししいです。今年の正月、その男がウチにやってきて、『将来、結婚させてほしい』というもんで追い返してやったんです」「娘は親の言うことをよく聞く素直な子やったのに、それ以降というもの反抗ばかりするようになって、みんなあの男がそそのかしているんですワ」

 

一人娘が短大の卒業式を前に家出したと相談に来た父親の話をよくよく聞いてみると、それは「家出」ではなく「駆け落ち」でした。

・また、このお父さんがひどい。

「結婚を前提に交際したい」と筋を通してあいさつに来た娘の同級生を怒鳴って追い返す。しかも、それからというもの反抗的になったお嬢さんの態度もその男性がそそのかしたのだという。そして彼女が家を出た理由に至っては「男が娘をだまして連れ去った」と言い出す始末なのです。私はと言うと、この父親の話を聞いているうちに、もちろんムカムカしてきました。(これじゃあ、娘さんも家を出たくなるわなあ)(いまだにこんな父親がいるんやなあ)しまいにし、頭痛を通り越して「ウーム」と感心してしまいました。

しかし、まだ納得するには早かったのです。

「正月、あの男を追い返してからというもの、素直だった娘が反抗的になって二月の初めに最初の家出をしたんです」

「えっ!?家を出られたのは今回が初めてじゃないんですか?」

<続>

浮気調査は…(3) | 秘密のあっ子ちゃん(140)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

美容院の女性経営者(46)の依頼で、夫(48)の浮気現場を押さえるため、張り込み調査を開始した尾行班は、その彼がマンションから出てくるのをじっと待つ。

<午前七時三十分> 依頼人が事前の打ち合わせ通り、 近所の奥さんたちと温泉旅行へ出発。

<午前八時>調査先は動かず。

<午前九時>調査先まだ動かず。

<午前九時五十分>調査先がついに出てきた。背が高くひょろっとしていてちょっと神経質そうなおっちゃんだ。私たちは、この調査先をこれ以降、親しみ(?) を込めて”オッチャン”と呼んだ。オッチャンはミニバイクに乗り、駅前の方へ走る。

<午前十時五分>オッチャン、 駅前のパチンコ店へ入る。

さあ、それからが大変だった。 オッチャンは、延々とパチンコに熱中し始めたのです。正午を過ぎても三時を過ぎても、昼食も食べずに、ただパチンコだけをしている。七時を過ぎても、九時を過ぎても夕食もとらない。ただひたすらパチンコなのです。何しろ、駅前商店街の中にあるパチンコ店のこと。車を乗りつけてその中で張り込むこともできず、”立ち”で張り込むしかない。

元気のいい、わが尾行班とはいえ、”立ち”の張り込みが十時間以上ともなると、さすがにあごが上がり始めてきたのです。

 

降気調査を依頼してきた美容院経営の主婦との事前の打ち合わせでは、夫は妻の宿泊旅行の間に、浮気相手と密会する手はずでした。ところが、密会どころか朝の十時からすでに十時間以上も、ただひたすらパチンコに熱中している “オッチャン”(ご主人のこと)。

駅前商店街の中にあるパチンコ屋のこと、車を乗りつけてその中から張り込むわけにもいかない。”立ち”の張り込みがこれだけ長時間になると、いくら元気印のわが尾行班といえども疲労の色は隠せません。

食事やトイレは交代で行けるとしても、調査先がいつ動くかもわからないので、休憩さえ取れない。不幸なことに、わが若い衆は全員パチンコがヘタで、オッチャンのそばでパチンコを打っても間が持たない。

尾行班が「もううんざり」と思ってきたころ、店内はついに”蛍の光”が流れ出しました。オッチャンが動き出す。閉店するのだからイヤでも動かざるを得ませんが。尾行班もオッチャンの跡を追う。(ちなみにオッチャンの十二時間の成果はゼロだったようです)。パチンコ店を出たオッチャンは、ミニバイクはそのままに、今度は15メートルほど先の麻雀店に入りました。

その麻雀店に「例の女がいるのでは?」と、メンバーの一人が店内をのぞく。しかし、”女”の姿はなく、オッチャンは早くも麻雀に熱中し始めているではありませんか。

結局その日、彼は午前二時近くまで麻雀をして真っすぐ帰宅したのです。

翌日の日曜日、尾行班は午前八時から自宅前で張り込みを開始しました。前日の十九時間に及ぶ尾行で疲れは倍増していましたが「今度こそは」と気合を入れて張り込んだのです。

<午前十時十分> オッチャンが出てくる。十分睡眠をとったのか元気そうだ。昨日と同様、ミニバイクに乗り駅前へ走る。「またパチンコと違うやろな!」と不安に思いつつ跡をつける。

<十時二十五分> 駅前の喫茶店に入り朝食をとる。「待ち合わせか?」と、張り込みを続けるが女は現れない。

<十一時五分> 喫茶店を出たオッチャンは駅に入り、「動物園前」行きの電車に乗る。尾行班も車とバイクを乗り捨てて電車に乗りこむ。

<十一時五十分> オッチャン、日本橋で下車。地上に出て道頓堀を歩いていく。「これは、いよいよだ」と思ったのもつかの間、オッチャンは何と場外馬券売り場の人込みの中へ入っていくではないか!

その後、彼は、場外馬券売り場と道頓堀の喫茶店を何往復かし、午後四時半過ぎ、「真面目」に帰宅したのです。

初日の十九時間に及ぶパチンコと麻雀。二日目の場外馬券売り場での競馬への熱中ぶり。調査の結果、彼に「浮気」の事実は出てきませんでした。しかし、かけ事にのめり込んでいる事実は明らかになったのです。

 

夫の浮気調査を依頼してきた美容院の女経営者でしたが、二日間の張り込みの結果、その疑いは晴れました。「浮気の事実はなかったが、賭け事にのめり込んでいるようだ」

尾行報告書を手渡した時、この依頼人は随分意外な顔をしていました。それもそのはず。彼女は、夫の帰宅時間が遅いのも所帯費を入れないのも、全て浮気のせいだと思い込んでいたのですから。

その後一カ月ほどして、彼女から当社へお礼かたがた報告の電話が入りました。彼女は、ご主人を問い詰めるやらなだめるやらしてとうとう、「賭け事の負けが込んでサラ金にも手を出している」ことまで白状させたと言うのです。そして、よくよく話し合い、「賭け事はやめる」「二人で頑張って借金を返し、もう一度やり直す」という結末になったとか。彼女の声は依頼してきたときの悲痛な声ではなく、むしろ晴ればれとしていました。借金という尾ヒレがついてきたため「めでたし、めでたし」と言っていいものかどうかわかりませんが、少なくとも「離婚」という最悪の事態だけは避けられました。

そして、当社も初めて受けたこの浮気調査で、ずいぶんいろいろな勉強をさせてもらったのです。

<終>

 

浮気調査は…(2) | 秘密のあっ子ちゃん(139)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

美容院を経営する四十六歳の主婦からの相談が、当社が探偵事務所を設立して初めて受けた浮気調査の依頼でした。「とにかく夫の浮気の証拠をつかんでほしい」と。しかし、仮に浮気の証拠があがったとしても、彼女がただやみくもに騒ぐだけのためなら、何の解決にもならないわけです。そこで、何のために調べるつもりなのかを確認すると、彼女は「今度また、本当に浮気をしているのなら、離婚する覚悟だ」と言うのです。一度は許せても二度目は許せない。ましてや、所帯費も入れないのでは、がまんならない。また浮気しているのかと思うと顔を見るのも腹がたって口をきく気もしない…」などと話しているうちに感情も高ぶってきて、ついには涙声になられるのです。
お兄さんの援護射撃も彼女の腹立ちに油を注ぎました。「幸い子供もいないことだし、お前一人なら美容院で十分食っていけるだろう。そんな男とは別れろ!オレもあいつにはとことん愛想が尽きた」と。マ、こういう場合、私としては「そうですか。けしからん男ですね」と同調するわけにもいかない。かといって、「大丈夫です。浮気なんてされてませんヨ」なんて気休めを言うのもあまりにも白々しい。「分かりました。それでは、きっちり調べてみましょう」とお受けするしかないわけです。あとになって気づいたのですが、「分かりました。きっちり調べてみましょう」という言葉の効能は驚くほど大きいようです。彼女もその言葉を聞いて、それまでの食欲不振と不眠状態がめっきり改善されたというのですから。

さて、私は早速、現場に下見に向かうと同時に当社の尾行班に連絡を取ったのは言うまでもありません。尾行班は非常動スタッフで、元気のいい若い衆(と言っても、どこかの組の構成員ではありません)が顔をそろえています。下見の結果に基づいてメンパーたちに尾行の日程や張り込みの時間、位置、車両台数などを具体的に指示します。調査相手の特徴や日ごろの行動パターンなどもできるだけ詳しく伝えます。この時に調査先の写真や現場人の地図などの七つ道具を渡すのは当然のこと。

私自身が尾行現場に出るのは全体の半分くらい。センター機能が必要な尾行は、私がセンターに詰めていますので現場には出られなくなります。だけど、どんなケースでも現場を見ていないと何の指示も出せません。下見に関しては必ず私自身で足を運びます。それはさておき、話は少し戻りますが、この調査先は行動パターンが全く一定してなかったのです。
彼は公務員ですので毎日決まった時間に仕事は終わりますが、アフターファイブに、組合の会議があったり同僚との付き合いも非常におよろしいらしい。いつ、どの行動パターンのときに浮気を実行するかが、まったく予測が立てられないのです。

 

浮気の現場をおさえるための張り込みを始めようにも、同僚との付き合いがよすぎたり、毎日の行動がパターン化されていないケースでは張り込みや尾行に日数がかかります。浮気調査の依頼をしてきた美容院を経営する彼女の主人がそうでした。こうした場合、少なくとも一週間から十日くらいの張り込みが必要となってくるんですが、それでは調査料金が非常に高くつくし、結果的に目当ての女性と逢い引きしなくてもいったん張り込みや尾行を始めれば、調査料金は当然必要になってきますので、依頼人の負担はかなり重くなってきます。

そこで、私は彼女のご主人が「安心して」コトを起こせるように、実家へ帰るとか、旅行に行くとかの口実で、外泊の機会をつくる提案をしたのです。それじゃ、町内の忘年会に行くことにします。それが来週の土、日曜日なんです。町内会の忘年会は毎年、一泊の温泉旅行なんですけれど、今年ばかりは主人があんな状態でしょう。私が城崎へ行っている間に、あの女に会われたらイヤなんで、ずっと断っていたんです。だけどそれに行くことにします。そんなわけで尾行の決行日は、彼女が一泊旅行に出掛ける際の週の土曜日と日曜日の二日間に決定したんです。

美容院を経営する女性から依頼された夫の浮気調査。さて、いよいよその尾行当日の土曜日、わが尾行班は一台とバイクー台、歩き一名の計四名で張り込みを開始。そもそも、尾行中に決してやってはいけないこと。それは、「目立つ」ことです。周りの雰囲気に「溶け込んでいでいる」ことが鉄則なのです。テレビドラマや映画などでは探偵といえばトレンチコートでサングラスをかけ、電信柱の陰から様子をうかがっている」なんて図をよく見かけますが、あんなことはとんでもない。住宅街でそんな格好でたたずんでいようものなら目立ってしょうがない。
実は、私も一度だけ失敗したことがあります。ある新興マンション群の中にある公園で張込んでいた時、ウチのメンバーがつかつかと私に近寄って来て言うのです。「社長、浮いてまっせ」 と。ふと周りを見ると、 その公園の中は、幼児を遊ばせている二十代の若妻ばかりだったのです。自分では、あくまでも溶け込んでいるつもりでしたが、どうも無理があったようで(ちなみに、私は39歳)、内心ちょっとムツとしながら、その時はすぐに若いメンバーと交代したのですが・・・。

<続く>