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韓国からの依頼は・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(165)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

親友の紹介で、依頼にや ってきたソウルの大学教授 (32才)。
私は日本に働きに来てい るという彼の妻を探してほ しいという依頼かと思って、
通訳で同行してきた依頼人の友人が訳す話を聞い ていました。
しかし、希望はそういうことではなかったのです。
彼はどうしても彼女と離婚したいと望んでいまし た。慰謝料を渡しても、別 居しても、日本に出かせぎ に出ても、未だに離婚を拒 否している彼女に対して、いやが上でも離婚に応じざ るを得ない証拠を掘りたい ということだったのです。

彼が言うには、韓国の法 律では妻が日本で水商売をしているだけでも離婚が認 められるということでし た。つまり、彼の依頼とい うのは妻が大阪のクラブで 接客している場面の写真が ほしいということだったの です。

私は、彼の言う『韓国の 法律』云々ということの真偽は確認してはいません が、一時期、韓国の有名な野球選手が『不貞罪』に問 われたとか問われなかったか、そんな記事を読んだ 記憶もよみがえり、『韓国の 法律は厳しいなぁ』と思ったものです。

私にとっての問題は、法 律の真偽よりもこういった 内容の依頼を受けるかどう かでした。

というのも、依頼内容が日本に働きに出てしまった彼の妻の居所を探してくれ ということばかりではな く、離婚に応じない彼女が いやが上でも応じざるを得 ない証拠を把み たいということだったから です。

証拠を把むことは訳 ないことなのですが、私にしてみれば、依頼人の話もどうも一方的のように思え、妻の言い分も聞かないうちにそんな証拠を突きつけてもいいのだろうかと迷ったのです。
「分かりました。とりあ えず、彼女が働いている店 を突き止めましょう」 私はそう答え、彼女が働 きそうな韓国クラブを当た り始めました。
ところが、その翌日、依 頼人であるこの韓国の先生と同行してきた、親友の料 亭の支配人から電話が入りました。

『昨日、あれから先生が ソウルに連絡を入れたところ、奥さんの実家から彼女の勤務先を聞き出すことが できた』と言うのです。
そして、彼は私が煮え切ら 切らないのを察してか、それとも 依頼人との友情に義理立てしたのか、昨日の夜中じゅう、彼女を張っていたとも付け加えました。 彼は私に連絡を入れるや、慣れない寒い夜の張り込みの疲れが出て寝込んでしまったのです。

さあ、もうこうなると私もあれこれ考えてはいられなくなりました。私もよく知 っているこの支配人の律義さに知らん顔をしてはいら れません。韓国の先生の方も、何としても今回の滞在中にケリをつけたがってい ました。
私はすぐに尾行班に指示して、依頼人の妻が勤める韓国クラブへ“客”として 行かせました。 彼らは誰に不審がられる こともなく、難なく接待中の彼女をビデオに収めることができたのです。

<続>

韓国からの依頼は・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(164)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

中学、高校を通じての私の親友で、今、岡山で芸術料理の料亭の女将をし ている女性がいます。彼女のお父さんは腕のいい料理 人で、お母さんが女将、そして彼女のご主人はお父さ んの弟子だった人で、彼女 達夫婦はホテル内の支店を 任されているという訳で す。
彼女はもともと多才な人で、また、音大出身の経歴 を生かした音楽関係のつな がりや、別に運営している『うつわサロン』関係の陶 芸家達、あるいは店に出入りされる著名な常連さんな 「ど幅広い交友があります。 彼女はその幅広い人脈を 生かして、従業員達が仕事 の合間に習えるようにと、 様々なサークルを作っています。とりわけ語学サークルは英語、中国語、韓国 語、イタリア語などがあ り、講師はそれぞれの国の 彼女の友人達が担当しているという、何とも羨ましい 限りの職場なのです。
ある日、彼女から私の事務所に電話が入りました。
『あっちゃんも知っているウチの韓国語の先生が、 友達のことで相談したいことがあると言ってんねんけ ど、聞いたってくれる?』 彼女が言う韓国語の先生 というのは、ソウル出身で 三十歳。現在、岡山で大学の講師をしており、私が岡山へ遊びに行った時に一度 会ったことのある人でした。

電話が入った翌日、その先生は親友の料亭の支配 人と共に、二日前に来日した故郷ソウルの友人を 連れて当社にやってきました。
先生の友人という人も ソウルの大学で教鞭を取っており、年齢は三十二 才、今回の依頼人はこの 人だったのです。
先生の通訳を介して、 私が依頼人から聞いた話 はこうでした。

彼には妻と子供二人が います。彼の妻はほとん ど家事もせず、子供の面 倒もろくに見ないと言い ます。愛想をつかせた彼 は、彼女に離婚を申し入 れましたが、彼女はそれ に同意せず、何年も夫婦喧嘩が絶えなかったそうです。ある日、たまりか ねた彼は、思わず彼女に 暴力をふるってしまいま した。彼女はそれに対して慰謝料を要求し、その 金で釜山にスナックを開 きました。当然別居とな った訳ですが、彼女はそれでも離婚に同意しません。釜山のスナックはす ぐに潰れ、彼女は日本に 出かせぎに出始めたとい うことでした。

私は、日本にいる彼の妻を探してほしいという 依頼なのかと話を聞いて いました。しかし、依頼 内容は全く違ったので す。

<続く>

 

「マディソン郡の橋」のように(3)| 秘密のあっ子ちゃん(163)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

彼の所在が判明し、再会 を約束した日、電車がホームに着いて、改札に向って歩いていた彼女を彼は肩を叩いて呼び止 めました。
彼は振り返 った彼女を見てびっくりしました。
『えらいゲッソリやせて しもて・・・』
『いろいろあってネ・・・』
後は言葉になりませんでした。

二人で入った鍋屋で、彼 は『カニが好きやったな』と彼女の好物を注文しました。

十五年のブランクが一 気に消えるようでした。ま るで昨日別れたばかりのように彼は彼女の好物ばかり注文していました。

食事のあと行ったスナックで、彼女はずっと考えていたことを口にしました。
『一生に一回のお願いが あるの・・・銀座の恋の物 語をデュエットしてほし いんやけど・・・』

“銀恋”の最初で最後の デュエットをした後、彼は 彼女のために『おまえに』 を歌ってくれました。

彼女は彼と今も年に何回か会っていま す。

彼女は彼との再会の後、随分元気にな りました。体重もほとんど 取り戻し、今、文字通り『彼に助けてもらった』と 心から感謝しているのです。

<終>

「マディソン郡の橋」のように(2)| 秘密のあっ子ちゃん(162)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

お互い不倫と承知しつ つも、その恋心を押さえることができなかった依顆人(40)と彼(35)。
会える機会の少ない二人は、会った時は一秒でも長く一緒にいたいと思っていました。しかし、 お互い自分達の子供のこ とを考えると、家庭を壊してまで一緒になろうとはどうしても思えません でした。
その分、彼は彼女に対してはとても優しく、約 東はどんなことがあって も守ってくれました。
彼女は不倫への負い目は感じてはいましたが、 夫のあまりにも激しい浮 気に、『お互いさまや』という気持ちがどこかにあったことも事実でし た。
そんな人目をしのぶ二人のつきあいが二年程続いた暑い夏のある日、彼 女の夫が肝臓病で倒れ、緊急入院したのでした。
夫はその年の暮に一旦退院したものの、翌年の一月に再び倒れ、三月になってあっという間に亡くなってしまいました。
夫は二人の仲は一切知りませんでしたが、彼は 『罪作りなことをした』と自分を責めました。
夫の四十九日を済ませると、彼女は彼の会社に 電話を入れ、『別れた い』と一方的に通告したのでした。
彼もまた別れを覚悟していたのか、『仕方ないなぁ』とだけ言ったきり黙っていました。そして、彼女が電話を切ろうとした時、『今までのことは感謝している』とぽつりと言ったの でした。
それからというもの、彼女は二人の子供を育てるた めと、亡くなった夫が残した多額の借金を返済するた めに必死で働きました。
苦しい時はよく彼のことが思い出されました。彼の優しい一言があるだけでど れだけ心強いだろうか…。 そんな思いを抱いて寒い冬の夜に、彼の家の回りをぐ るぐる回ったことも何回かありました。しかし、やは り会うことはためらわれました。
何とか娘も結婚させ、息 子も大学を出したころ、彼女は再婚しました。新しい夫も二度目の結婚で、前妻 へ月々渡す慰謝料は、彼女 がやりくりして工面しまし た。彼女の二度目の結婚生活も何年かたって夫の出張が急に増え出し、ふと気づ くと二度目の夫にも女がで き、そこにいりびたりとなってしまっていたのです。 最初の夫にもさんざん浮気で泣かされた彼女は、もう耐える気力は起こりませ んでした。彼女はついに離婚を決意したのです。
『もう男はコリゴリ。一人の方がどんなに気楽か』そんな思いで久しぶりにのびのびした心で暮らしてい た彼女でしたが、子供達二人も既に独立して遠くに住んでいては、淋しさは募る 一方でした。
もともと動物好きの彼女は、その淋しさを犬一匹と 猫二匹を飼うことでまぎらわせようとしました。それ からまた何年か経ちまし た。彼女は骨身を惜しまずに働くことをいとわなければ、それなりの平穏な生活 を続けることができまし た。
ところが、昨年になってそうした生活も急変したのです。家族同様に可愛がっていた犬と猫が相次いでバ タバタと死んでいったのです。
彼女は本当の孤独を感じていました。全く一人で暮 らすのは生まれて初めてでした。不安と孤独が食も細 めていきました。ペット達が生きていればそんな気にもならなかったのかもしれませんが、彼女は無性に彼 に会いたくなっていったのです。
彼女は彼の調査を当社に依頼してきました。しか し、依頼はしてみたもの の、『今さら』という思いが強く湧き上がり、一度は キャンセルしました。
しかし、やはり彼に会いたいという思いはどうしても消すことができません。 彼は彼女の人生の中で、一番美しい思い出の人でし た。三ヶ月後、彼女は再び当社に依頼してきました。
彼は職場も自宅も当時とは変わっていましたが、一週間もしないうちに所在が判明してきました。

<続く>